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徳島地方裁判所 昭和41年(ワ)189号 判決

原告

中川常美

外三名

代理人

三木仙太郎

被告

藤本衛一

代理人

森一郎

主文

(一)  別紙物件目録第一の(イ)及び(ハ)の物件につき、原告中川常美がの割合の、同佐藤幾太郎がの割合の同西村トミコが割合の、各持分権を有することを確認する。

(二)  右各物件につき、被告は右原告ら三名に対しそれぞれ前記割合による共有持分権を有する旨の更正登記手続きをせよ。

(三)  原告藤本春男の請求並びにその余の原告ら三名のその余の請求を棄却する。

(四)  訴訟費用中、原告藤本春男と被告との間に生じた分は同原告の負担とし、その余の原告らと被告との間に生じた分はこれを三分し、その二を右原告らの、その一を被告の各負担とする。

事実

第一(申立)

原告ら  (一) 原告らが別紙物件目録「第一の(イ)、(ロ)」に記載の各不動産(かりに右(ロ)記載の各不動産についての請求が認められない場合には、予備的請求として同目録「第一の(イ)、(ハ)」に記載の各不動産)につき各自四分の一の共有持分権を有することを確認する。

(二) 被告は原告ら各自に対し、前記不動産(別紙物件目録「第一の(イ)、(ロ)」に記載の各不動産、それが認められないときは予備的に同目録「第一の(イ)、(ハ)」に記載の各不動産)につきそれぞれ四分の一の共有持分権を有する旨の更正登記手続をせよ。

(三) 訴訟費用は被告の負担とする。

被告 (一)  原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二(当事者双方の主張)〈省略〉

第三(証拠)〈省略〉

理由

一、原告ら及び被告の五名はいずれも亡藤本壮衛の子であるところ、同人は昭和三八年一二月一日死亡したので、右五名がその共同相続人となつたこと、ところが、被相続人壮衛は生前昭和三三年四月七日被告に対し適式の遺言公正証書により別紙目録第二(イ)の物件を遺贈していたため、被告はこれを単独所有するに至つたこと、そこで、原告ら残りの相続人四名は各一〇分の一(合計一〇分の四)の遺留分を侵害されたとして被告に対し昭和三九年一一月二〇日到着の調停申立書により本訴で請求しているような内容の遺留分減殺請求権を行使したこと、被告は現に登記簿上原告ら主張の第一(イ)(ロ)(ハ)の各物件につき所有名義人であること、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、原告らの主張する遺留分侵害の存否を検討するため、まず原告らの遺留分算定の基礎となる財産を確定する(民法一〇二九条一項)。

(一)  (被相続人壮衛が相続開始の時に有していた財産)

現存財産として、被告に遺贈した前記第二(イ)の物件と、現に被告の居住する第二(ハ)の建物(右第二(イ)の物件中(13)の宅地地上にある被告方住居)とが存することは当事者間に争いがないか、もしくは弁論の全趣旨により明らかに争いがない。お、右第二(ハ)の建物につき、原告らが「実質は被告所有である」と主張する趣旨は右判断の妨げとなるものではない。しかして、他に加うべき財産の主張立証はない。

(二)  (被相続人の生前贈与財産)

この分に関する当事者双方の主張はいずれも共同相続人に関するものであるから、民法一〇三〇条の規定にかかわらず、同法一〇四四条で準用される同法九〇三条に照らし持戻財産の存否の見地から検討する。

(イ)  (亡壮衛の被告に対する生計資本としての贈与の存否原告らの主張――)

亡壮衛の被告に対する第二(ロ)の物件(すなわち第一(ロ)の物件。畑一枚と保安林二筆)の生前贈与の存否については、これを肯認する原告春男本人尋問の結果は〈証拠〉に照らしにわかに措信できず、他に右贈与の事実を裏付ける確証はない。かえつて、右各証拠や、その取得日時と被告の年令(明治四四年生)、立場(被告は亡父壮衛の長男で、壮衛と同居して家業たる農業を継ぎ、祭祀も主宰しているのに対し、原告らはいずれも被告の弟妹にして、養子に出るか、分家し、または他家に嫁いでいる事実)に照らすと、右第二(ロ)の物件はいずれも登記簿記載のとおり被告が原告ら主張の頃直接他から買受け(保安林二筆)、または自創法による払下げを受けた(畑)と認められる。証人藤本徳太郎は右の点について「右物件は被告が長男であるにもかゝわらず頭も弱く、嫁も何回となく逃げる始末で、あつたから、分家することが決まり、原告春男において被告のため買い与えたものである」趣旨の証言をするが、右証言は原告らの主張にも合致せず、到底信用できない。(ロ)(亡壮衛の原告らに対する生計の資本または婚姻、養子縁組にさいしての贈与の存否―被告の主張―)

亡壮衛の原告らに対する第三(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各物件贈与の存否については、原告らがこれを自認して争わない分以外の分についてこれを認めるに足る確証はない(但し、(ハ)(2)の家屋建築費については後記三(3)(ハ)のとおり修正する)。右の範囲を超える贈与の存在をいう乙第二九、三〇号証の記載、証人藤本ヨネカの証言、被告本人尋問の結果はいずれも主張にないが、もしくは、極めて概括的な供述であつて採用し難い。なお、乙第四号証によれば、原告トヨコに対する第三(ニ)(5)蚊帳一重の贈与が認められるが、その価額に関する立証がないから、贈与の存否の段階でこれを容れない。

(三)(負債)

亡壮衛に消極財産のなかつたことは当事者間に争いがない。

(四)(結論)

そうすると、本件遺留分算定の基礎となる財産は、①第二(イ)の被告に対する遺贈物件、②第二(ハ)の現存物件、③第三(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の物件中、前記説示の範囲での原告らに対する生前贈与物件、以上であることが確定される(なお、③の遺留分権者たる原告らの受贈分について、亡壮衛において特段持戻し免除の意思ありと認めるに足る事情は認め難い。九〇三条三項参照)。

三、次に、右財産の価額を算定する。

まず、財産の価額は原則として相続開始時における時価をもつて定めるのを相当とするが、本件においては、生前贈与物件についても、その贈与時期が区々にわたり、かつその間における経済変動が著しい点に照らし、贈与時の客観的価額を相続開始時の価額に換算するのが遺留分制度の趣旨ひいては公平の理念に照らし合理的であるから、以下右基準に従つて算定する(なお、本件当事者は双方ともこれを当然の理として弁論している点も参照。民法九〇四条)。

①  第二(イ)の被告の受遺物件の価額は鑑定人中川太郎の鑑定の結果に照らし、各目録備考欄記載のとおりであり、合計八六三、〇五四円、万以下の端数を四捨五入すると八六万円と認めるのが相当である。

②  第二(ハ)の現存物件の価格は前記鑑定の結果に照らし、二六三、〇〇〇円、万以下の端数を四捨五入すると二六万円と認めるのが相当である。

③  第三の原告らの受贈物件の価格

(イ)  原告常美分は同人の自認する合計六〇、〇〇〇円(目録第三(イ)参照)これを超える被告の主張は確証がない。

(ロ)  原告幾太郎分も同人の自認する合計二二、〇〇〇円(目録第三(ロ)参照)、万以下の端数を四捨五入すると二万円。これを超える被告の主張は確証がない。

(ハ)  原告春男分については(1)の土地は同原告の自認する五畝一歩について、前記鑑定の結果によりこれを一〇アール(三〇二坪五)当り一七万円を基準とするのを相当と解し(右鑑定人が田を一八万円、畑を一五万円とみている点参照。原告の自認する五畝一歩の現況は明らかではないが、その県道との接近条件や同原告の自宅に近い点等に照らし、右のとおり定めた。しかして、本件遺留分算定に関する評価基準としては右の程度をもつて十分と考える)、これを換算して八五、〇〇〇円と定める。(2)の家屋建築費については前掲証人藤本ヨネカ(第二回)、被告本人の供述に照らし、新築家屋のほぼ全体が同原告の分家にさいする特別受益となつたものと認め(これに反し、同原告が自ら役場へ勤務したことによつて貯めた預金等で建てたという同原告の供述は前記証拠や、同人が当時戦地から帰つてきて間もない頃である点、その年令等に照らしそのまゝこれを措信することはできない)、その価格は前記鑑定の結果に照らし五〇万円(七五二、五〇〇円とする鑑定結果から、原告春男が一部投下したと認める増価額、有益費を控除したもの)と定める。(4)絹布団一流、(5)米、(8)昭和三四年頃の板塀造築材は同原告の自認する価格合計三五、一五〇円(目録第三(ハ)の(4)(5)(8)欄参照)とし、これを超える被告の主張は確証がない。以上合計六二〇、一五〇円、万以下を四捨五入すると六二万円。

(ニ)  原告トミコ分は同人の自認する合計二七、〇〇〇円、(目録第三(ニ)参照)、万以下を四捨五入すると三万円。これを超える被告の主張は確証がない。

すなわち、以上を合計すると、結局、本件遺留分算定の基礎となる財産価格は次表のとおり合計一八五万円と認めるのが相当である。

(遺留分算定の基礎財産)

①  被告の受遺分(第二(イ))

八六万円

②  現存遺産(第二(ハ))

二六万円

③(イ) 原告常美の受贈分(第三(イ)の一部) 六万円

(ロ) 原告幾太郎〃〃(〃(ロ)〃)

二万円

(ハ) 原告春男〃〃(〃(ハ)〃)

六二万円

(ニ) 原告トミコ〃〃(〃(ニ)〃)

三万円

合計一八五万円

四、以上の結果によると、原告らの具体的な遺留分価格は、(イ)原告常美が一二五、〇〇〇円(基礎財産一八五万円に各遺留分1/10を乗じた一八五、〇〇〇円から生前受贈分六万円を控除する。以下同じ)、(ロ)原告幾太郎が一六五、〇〇〇円、(ハ)原告春男は零(従つて、同原告の本訴請求はこの段階で既に失当であること明白)、(ニ)原告トミコは一五五、〇〇〇円となる。

ところで、前記基礎財産中②の建物(価格二六万円)は現存する唯一の遺産であるところ、今もしこれを原告ら及び被告が遺産分割するとしてその相続分を試算すると(本件では関係人がすべて共同相続人であるから、遺留分算定の基礎となる財産――民法一〇二九条一項――と相続分算定の基礎となる名目上のみなし遺産――同法九〇三条一項――とは一致する)、各人の相続分は三七万円(総額一八五万円の1/5ずつ)であり、いずれにしても原告春男(その生前受贈分六二万円)と被告(その受遺分八六万円)の特別受益額は右相続分を超えること明白であるから、この二人は現存遺産(②の建物のこと)の分配に預り得ず、現存遺産の相続利益はすべてその余の原告ら三名が、その相続分に応じ(すなわち二六万円の1/3ずつ)これを取得すべきものであり、それは計算上八、七万円(四捨五入)となる(なお、遺産分割のあかつきは、②の建物は具体的にはこれを被告の単独所有とするのが至当であり、かつそれが可能であることもちろんであるが、それは協議または家庭裁判所の調停、審判によつて専権的に解決されるべき事項である。後記五の説示参照)。従つて、原告春男を除く原告ら三名は現存遺産②により相続分各八、七万円を確保していることになり、これは三名が減殺返還を受けうべき遺留分価格からさらに控除されるべき筋合で、そうすると、右原告ら三名の減殺可能の遺留分は最終具体的には、原告常美が三八、〇〇〇円、同幾太郎が七八、〇〇〇円、同トミコが六八、〇〇〇円の価格となる。

しかして、遺留分減殺の順序は遺贈分(①価格八六万円)をもつて贈与分(③(ハ)価格六二万円)より先にすべきであるから(民法一〇三三条)、右原告春男を除く原告ら三名の被告に対する減殺請求は右の限度、すなわち、原告常美が、同幾太郎が、同トミコがの各割合の限度において正当で、右の限りにおいて物権変動が形成されたと解さなければならない。

五、ところで、本件のように一個の遺贈行為によつて多数の物件(すなわち、第二(イ)の物件)が処分され、その一部の割合に遺留分侵害が存する場合、そのうちの特定物件を選択する権利が遺留分減殺請求権者の側に一方的に存するものであるか否かについて検討する(本訴原告らがこれあるを当然の前提としていることはその訴旨に照らし明白である)。

思うに、減殺請求権者にこのような選択権を認めた民法上の規定は見当らないし(同法一九六条二項は他の場合について明文で一方当事者の選択権を定めた事例)、またそのように解さなければならないほどの条理上の要請も見当らない(わが遺留分法がいわゆる現物返還主義をとりながら価値返還主義を併用している点参照。民法一〇四一条)。かえつて、これを認めると受遺者の立場を無視して、同人にとつて必要不可欠の居住家屋、敷地、生活手段たる農地、営業場所、のれん等の受遺物件を、さしてそれを必要としない減殺権者が狙い打ち的に選択してもこれを容認せざるをえなくなり、甚だ片手落ちとなり、ひいては被相続人たる遺贈者の自由なる意思自体にももどり、さりとて、この弊害を権利濫用のような一般条項によつて規制することも不適切、不十分であり、また、弁論主義の妥当する訴訟裁判所にはもともと右選択権行使内容の相当性を、例えば原告の選択物件は適当でないが、他の非選択物件を減殺するのが適当である、というようにして具体的に判断する権限も機能も備えていないわけである(遺留分減殺請求権行使の結果たる権利関係を断ずる裁判が通常の民事訴訟であることは多言を要しない。以上のような不合理は或いは被告らの価額弁償の抗弁(民法一〇四一条)によつて一部調節されうるであろうことはこれを敢えて否定しないが、これとて抗弁主張をまたねばならないし、右抗弁自体も当該被選択物件を金銭に代替しうる限度でしか返還義務者を保護せず、他の受遺物件に代えることは不可能である点で自ら限界がある。のみならず、選択権者、返還義務者がともに共同相続人である場合は、遺留分問題は常に遺産分割の前提問題として機能する点に思いをいたすと、かかる選択権を認めることは、本来、家庭裁判所での遺産分割の調停(当事者の円満なる合意)または審判(非訟、職権主義的に形成される)の内容を減殺権者が一方的に先取りしてしまうことにもなりかねず、これは家庭裁判所専権事項の体系をも乱す結果になる)。

これを要するに、一個の遺贈行為による数個の物件の所有権移転処分が減殺された場合は減殺者に減殺物件選択の余地はなく、そのすべての物件についてそれぞれに遺留分の割合に応じてその持分権が減殺者に移転し、右数個の物件に右割合による共有関係が生ずると解すべきである(現に、一個の不可分物の一部減殺の場合には、その割合に応ずる共有関係の生ずることは承認されている――東京地裁昭三四・五・二七判決判例時報一九〇号二八頁――。また、いまかりに選択権を認めた場合でも、本件のように遺留分の割合自体を大巾に減少せねばならないときは、裁判所において、これを適宜選択する破目になるか、さもなければ、予じめ原告にその選択権行使を促さねばならない、と言つた極めて不合理な結果を招来することになる)。しかして、右共有状態を解消するためには(イ)本件のような共同相続人相互間の場合は、現存遺産とともに当事者間で協議をなし、あるいは家庭裁判所における調停または審判に訴えることによつて合理的にこれを解決すべきであり、(ロ)受遺者すなわち返還義務者が第三者である場合は須らく共有物分割の協議または訴訟(この裁判が裁判所の職権による自由な裁量の支配するいわゆる非訟裁判であることに異論はない)によつて解決すべきである(このように(イ)と(ロ)をパラレルに考える限りにおいて遺産分割手続を共有物分割手続の特殊集合形態であると観念することは正当であろう)。かくして、遺留分減殺請求訴訟は遺留分の存否及びそれが存在する場合におけるその割合(共有持分の割合)を判断確定する点においてのみその役割を果す通常の訴訟であり、その分割等に基く最終解決は当事者の合意(調停または協議)ないしは非訟裁判(審判または共有物分割訴訟)にまたねばならず、このことは、あたかも、遺産分割の前提問題たる遺産の存否及び範囲の確定がそれだけで独立の訴訟判断事項として民事訴訟に親しむ点にもなぞらえられるべきである(なお、減殺請求訴訟確定後の価額弁償の抗弁がそのまゝ許されるか、または請求異議訴訟のような形でのみ許されるのか、ひいては右にいう抗弁の正確な法的性質如何等の問題は本訴に直接関係がないから暫らくおく)。

六、してみると、原告春男を除くその余の原告らの本訴請求は、被告の受遺物件たる第二(イ)の物件のうち原告らの申立てたる第一(イ)及び(ハ)の各物件について前記四(結論部分)で説示した割合の範囲で持分権を有することの確認を求める部分及びその旨更正登記手続きを求める部分に限り正当であるが、その余の請求並びに原告春男の請求は失当である。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度でこれを認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。(畑郁夫 葛原忠知 岩谷憲一)

(請求の原因)

一、原告中川常美、同佐藤幾太郎、同藤本春男および同西村トミ子、ならびに被告藤本衛一はいずれも亡藤本壮衛の子である。

二、右壮衛は昭和三八年一二月一日死亡し、同日相続が開始した。

同人の相続人は直系卑属たる原被告等五名のみであつて、各人の相続分は均等であるから、各自相続財産につき一〇分の一宛の遺留分権を有する。

三、(イ) しかるに、前記壮衛は相続開始前である昭和三三年四月七日公正証書をもつて被告に対し、別紙物件目録「第二の(イ)」に記載の各不動産を遺贈する旨の遺言をした。

(ロ) それ以前において、右壮衛は別紙物件目録「第二の(ロ)」に記載の(1)の不動産につき昭和二六年八月二八日、同(2)の不動産につき同二三年八月九日、同(3)の不動産につき同二四年一月二一日付でいずれも被告に対し生前贈与をした。

但し、その所有権取得登記は中間省略により右壮衛の前主から直接被告にしてある。

(ハ) 右(イ) (ロ)を除けば、相続財産としては僅かに別紙物件目録「第二の(ハ)」の建物のみが存するにすぎないが、同建物も被告の所有使用するところで事実上同人の所有である。

(ニ) かくして、原告等は相続によつて何らの財産も得ることができず、原告等の遺留分は全面的に侵害される結果となつた。

四、遺留分算定の基礎となる財産の範囲は、前記のとおり別紙物件目録「第二の(イ)(ロ)(ハ)」に記載されている不動産のみで他にない。それらの相続開始時における評価額は同目録の「原告主張価格欄」のとおりであつて総計二、四九四、六〇〇円となる。

五、原告等各自は右二、四九四、六〇〇円の一〇分の一宛遺留分を有するところ、前記三に記載のとおりその全部が侵害されているので、それを回復するに必要な限度、すなわち原告等四人で前記全体財産の一〇分の四に相当する範囲で、被告に対する遺贈および生前贈与物件の中から、別紙物件目録「第一の(イ)、(ロ)」に記載の各不動産について遺留分減殺請求をする。

かりに、生前贈与分の減殺以前に遺贈分の減殺をまずなすべきものであり、従つて前記「第一の(ロ)物件に対する減殺が認められない場合には、右「第一の(イ)、(ロ)」の各不動産にかえて同「第一の(イ)、(ハ)」の各不動産について減殺請求する。

六、前記減殺の意思表示は、昭和三九年一一月六日減殺ならびに相続財産分割の調停を徳島家庭裁判所に対して申立てたことによつてこれをなした。右意思表示は昭和三九年一一月二〇日被告に到達している。

七、これにより、別紙物件目録「第一の(イ)(ロ)」(予備的に「第一の(イ)、(ハ))」に対する遺贈ないし生前贈与はその効力を失い、遺留分権利者たる原告等四名の共有に帰した。

八、しかるに、前記不動産は依然被告の登記名義下にあり、同人は原告等の共有権を争うので請求の趣旨に記載のとおり、同物件につき原告等が各自四分の一の共有持分権を有することの確認ならびに持分移転登記手続を求める。

(被告の主張に対する原告等の答弁)

九、いわゆる特別受益の有無およびその数額についての原告等の主張は、別紙物件目録「第三の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)」の「原告の主張」欄記載のとおりである。

(被告の認否)

一、認める。

二、認める。

三の(イ)、認める。

三の(ロ) 否認

上記三筆の不動産は、いずれも、被告がその出捐において、原告主張の頃、自らのために買得したものである。

三の(ハ) 上記建物を被告が占有使用していることは認める。なお、同物件は前記遺言において相続の遺留分として特に残されたものである。

三の(ニ) 争う。

四、後記特別受益の項参照

なお、上記不動産の相続開始時における評価額は、別紙物件目録「第二の(イ)、(ロ)、(ハ)」の「被告主張価格」欄に記載のとおりである。

六、認める。

七、争う。

八、被告の登記名義であることは認める。

(被告の主張)

九、原告等は、別紙物件目録「第三の(イ)、(ロ)(ハ)、(ニ)」に記載の如く亡壮衛の生前、同人から原告等が分家ないし養子縁組し、あるいは婚姻をするに際しそのために、もしくは生計の資本として、それぞれ同目録に記載の物品ないし金員の贈与をうけた。それらの相続開始時における価格は同目録に記載のとおりで、すくなくとも原告中川常美は計一〇二、〇〇〇円以上同佐藤幾太郎は計二三九、〇〇〇円以上、同藤本春男は計三、七一一、九〇〇円以上、同西村トミ子は計三〇六、五〇〇円以上に達する。

これに、いわゆる特別受益として遺留分の額およびその侵害の有無程度を定めるにつき考慮さるべきである。(物件目録省略)

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